グレイズ ラビリンス
ⅲ アゲハ蝶~灰原美紀

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私は空が好き。
でも、何にもない晴天の空じゃなくて、雲が浮かんでいるほうがいい。
一つとして同じ形をとらない雲からは様々な想像をかき立てられる。
例えばあれ。
歪な楕円形をした小さな雲の横にある大きな雲。
円を中心から60度程切り取った口をその雲に向け、口の上下から後方にかけて緩やかなカーブを作り、一点で結ばれたラインは互いに交差している。
再び外へ広がったラインは少し進んだ所で途切れていた。
そう、口を大きく広げた魚と食べられようとしている何か。
正確なラインを形どっているのではなく、そのどれもが歪で。
見る人によっては私とは違うものを想像するかもしれない。
だからこそ、楽しい。
美樹は一人、口に笑みを浮かべながら右手に握った鉛筆を前に突き出し、空と地上の木々の境目に縦・横と動かした。
「よし!この辺かな」
スケッチブックに直線・曲線・点のステップを踏みながら、真っ白な紙全体を使って躍るように動く鉛筆。
時折、休みながらも黒さを増すスケッチブックはいつの間にか目の前の情景を映し出していた。
「あっ……」
何度目かのスケッチブックと目前の景色の往復。
魚の雲は崩れ、点と点に千切れていた。
だよねー。


「ねぇ……あれって――」
どこかから、呟くような生徒の声が発せられる。
次第に歓声にも似た声があちらこちらから上がった。
「先生ー!あれってタンポポの綿ですよね」
校舎4階の窓が開けられ、一人の女生徒が上空を指さす。
「何言ってんだ。この時期……」
男性教師が女生徒の隣に立ち、空を見上げ唖然としながらも、空中を漂うそれを掬い手元を見た。
「あっあ……、タンポポの綿だな」


ヒュー――


美樹は突然吹き付けた風に誘われるように空を見上げた。
「えっ……」
乱れた髪を抑える手が止まると同時に揺れる体。
「美樹ー。こんな所にいたんだ」
「真奈美……」
「分かってる?今は12月」
「う……うん」
背中から抱きつく真奈美から伝わる暖かさに少し頭を傾け、美樹はぎこちない笑みを向けた。
「分かってないな、こりゃ……」
「いやいや、分かってるって。この時期の方が空気が澄んでいて空が……」
「それにしても、綺麗だよね」
美樹の反論の言葉を掻き消すように真奈美は言葉を発す。
「そうだよね。でも、何で……あっ」
空を見上げた美樹の隙をついて真奈美は美樹のスケッチブックを取り上げた。
「空も。だけど、こっちの方がもっと幻想的で素敵だと思うけど」


草木が生い茂る間に小路が一本――これは目の前の情景そのままに。
雲が通る晴天の空。
そこに舞う無数のタンポポの綿、それと――


「なぁ見ろよ」
外に出てきた男子生徒がタンポポの綿に混じるそれに頭を向けた。
つられるように見上げた隣の女生徒。
「地球の磁場でも狂ったわけ?」


――それと、綿を追うようにして舞う無数の"アゲハ蝶"
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