黒の浸透 prolog
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一人、町の片隅に佇む者の姿がある。
背には翼、ゆったりとしたガウンを身にまとい、微かながら白い輝きを体から放っていた。
しかし、その輝きが消えるのも時間の問題であった。彼女は体中に無数の切り傷を負い、 出血が酷い。その上、彼女の背にある翼はボロボロなのだ。
死を待つのみの状態であったが、誰一人立ち止まる者はいない。
そう。彼女は人間のように肉体をもたない天使であるが故に、人間には姿を見ることがで きないのだ。
彼女は最後の力を振り絞り、まだ僅かながら動かすことの出来る左手で自分の血を拭う。
そして、右腕に幾何学図形と文字を書き出し、何か言葉をを唱え始めた。
すると、血で書いた幾何学図形と文字から白に近い銀色の光が放たれ、言葉を唱え終わ った頃にはその光は彼女の体全体を覆っていた。
覆われた光によって、体は次第に透けてゆく。
「なぜ。あなたが……」
天を仰ぎ見ながら呟くが、全てを言い終わる間もなく彼女の姿は消え去り、雨粒ほどの光 の塊だけがそこに残った。この光の塊は意思を持つかのようにやがて宙に舞い上がり何処 かへ飛んで行った。
――
人々が行き交う中、一人の男が天使のいた町の片隅に顔を向け立ち止まっていた。
男の同行者は不思議がって訊ねる。
「ミハエルさんどうしたんですか?そんなところで立ち止まって」
「いや、何でもない。ちょっと見慣れないものを見た気がしてね。気のせいだったみたい だ」
そう言って男は再び歩き出した。
「そうですか」
これ以上、問いただしても何も答えてくれない気がして同行者は深く追求することを諦め 男の後を追う。
背には翼、ゆったりとしたガウンを身にまとい、微かながら白い輝きを体から放っていた。
しかし、その輝きが消えるのも時間の問題であった。彼女は体中に無数の切り傷を負い、 出血が酷い。その上、彼女の背にある翼はボロボロなのだ。
死を待つのみの状態であったが、誰一人立ち止まる者はいない。
そう。彼女は人間のように肉体をもたない天使であるが故に、人間には姿を見ることがで きないのだ。
彼女は最後の力を振り絞り、まだ僅かながら動かすことの出来る左手で自分の血を拭う。
そして、右腕に幾何学図形と文字を書き出し、何か言葉をを唱え始めた。
すると、血で書いた幾何学図形と文字から白に近い銀色の光が放たれ、言葉を唱え終わ った頃にはその光は彼女の体全体を覆っていた。
覆われた光によって、体は次第に透けてゆく。
「なぜ。あなたが……」
天を仰ぎ見ながら呟くが、全てを言い終わる間もなく彼女の姿は消え去り、雨粒ほどの光 の塊だけがそこに残った。この光の塊は意思を持つかのようにやがて宙に舞い上がり何処 かへ飛んで行った。
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人々が行き交う中、一人の男が天使のいた町の片隅に顔を向け立ち止まっていた。
男の同行者は不思議がって訊ねる。
「ミハエルさんどうしたんですか?そんなところで立ち止まって」
「いや、何でもない。ちょっと見慣れないものを見た気がしてね。気のせいだったみたい だ」
そう言って男は再び歩き出した。
「そうですか」
これ以上、問いただしても何も答えてくれない気がして同行者は深く追求することを諦め 男の後を追う。
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